大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和54年(ワ)10840号 判決

原告 株式会社 諸江製作所

右代表者代表取締役 諸江秀一

右訴訟代理人弁護士 松本昌道

同 正田茂雄

被告 株式会社 三井銀行

右代表者代表取締役 小山五郎

右訴訟代理人弁護士 各務勇

同 牧野疆

被告 新日本貿易有限会社

右代表者代表取締役 村田宏

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 植田義捷

主文

一  被告新日本貿易有限会社は、原告に対し、金一二八四万八〇六〇円及びうち金一二三〇万八〇六〇円に対する昭和五四年七月一四日から、うち金五四万円に対する同年九月二六日から各支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告新日本貿易有限会社に対するその余の請求及び被告株式会社三井銀行、同村田宏に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告新日本貿易有限会社との間においては、原告に生じた費用の二分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告株式会社三井銀行、同村田宏の間においては、全部原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告新日本貿易有限会社(以下「被告新日本貿易」という。)は、原告に対し、金一二八六万八〇六〇円及びこれに対する昭和五四年七月一四日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告株式会社三井銀行(以下「被告銀行」という。)同村田宏(以下「被告村田」という。)は、原告に対し、各自金一〇三六万五九六〇円及びこれに対する昭和五四年七月一四日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの各答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告新日本貿易の契約責任

(一) 原告はバドミントン用具の製造販売を業とする会社であるが、被告新日本貿易との間で、昭和五〇年三月三一日、同日から三年間、同被告に対し、原告が製造販売しているバドミントン用具の海外への輸出及びその原料の輸入についての業務の代行を委任し、その手数料を支払う旨の継続的取引契約を締結し、同被告との右取引を続けてきたところ、右契約は昭和五三年四月一日以降も更新されて存続してきた。

右契約においては、信用状による輸出については、被告新日本貿易は、原則として、商品の船積完了後七日以内に、原告に現金で商品代金を支払う約定であった。

(二) 原告と右被告は、昭和五四年四月一六日、訴外サンバタ・インターナショナル有限会社(以下「サンバタ」という。)を加えた三者間で、右(一)の契約を合意解除し、同年一一月一日以降は同被告に代ってサンバタが右取引を行なうこととするが、同年五月一日から同年一〇月三一日までの間は従来どおり同被告が右取引を行なう旨約した。

(三) 原告は、右被告の発注に基づき、同被告に対し、次のとおり、ラケット、ガット、ヘッドカバー、スポーツタオル類の商品を船積みして売り渡した。

(1) 同年五月二五日(発注は同年三月五日)

スリランカ向け商品 代金九四万円

(2) 同年六月四日(発注は同年四月五日)

スイス向け商品 代金六五万二一〇〇円

(3) 同年六月二七日(発注は同年四月四日)

西ドイツ向け商品 代金一六七万五六〇〇円

(4) 右(3)と同日(発注も右(3)と同日)

イギリス向け商品 代金八六九万〇三六〇円

合計 一一九五万八〇六〇円

(四) 原告は、同年六月二三日、右被告に対し、イギリスのS・J・スポーツ社納入用カタログ一万部(代金合計三五万円)を船積みして売り渡した。

(五) 原告と右被告は、同年七月一三日ころ、台湾の羽豊有限公司からイギリスのS・J・スポーツ社に対するシヤトルコック二〇〇〇ダースの輸出契約を成約させることに成功したが、右について、同被告は、原告に対し、S・J・スポーツ社への売渡価格と羽豊有限公司の輸出価格との差額である一ダース当り一ドル四〇セントの金員を原告の手数料取得分として支払う旨あらかじめ約していたので、原告は、右被告に対し、右成約により二〇〇〇ダース分合計二八〇〇ドル、邦貨換算で金五四万円の手数料債権を取得した。

(六) その後も、原告は右被告に対し、再三、右(三)、(四)の売買代金及び(五)の手数料の支払を催告した。

(七) よって、原告は、右被告に対し、右(三)、(四)の売買代金合計金一二三〇万八〇六〇円及び右(五)の手数料金五四万円並びにこれらに対する弁済期の経過した後である同年七月一四日から支払ずみまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被告銀行の契約責任

(一) 被告新日本貿易は、前記1(三)(3)及び(4)の商品(以下「本件(3)及び(4)の商品」という)の各取引について、被告銀行伊勢佐木町支店に対し、右各取引についての信用状原本を預託するとともに、将来、被告新日本貿易が右各信用状記載の条件に合致する荷為替手形の買取りを依頼したときは被告銀行において右手形を買い取り、その円貨代り金のうち、本件(3)及び(4)の商品の各代金額に相当する合計金一〇三六万五九六〇円を原告名義の三菱銀行笹塚支店の当座預金口座に振込送金することを依頼し、被告銀行伊勢佐木町支店から右依頼の承諾を受け、その旨を記載した昭和五四年六月四日付けの各「輸出円貨代り金振込依頼書」(以下「依頼書」という。)の交付を受けた(以下、この依頼書を「本件依頼書」という。)。

(二) 原告は、被告新日本貿易から、同月六日ころ、本件依頼書原本二通及び輸出関係書類を受領したので、同月二一日、同被告との約定どおり、本件(3)及び(4)の商品を乙仲業者である訴外日本港運株式会社に引き渡すことにより、同被告への商品引渡義務を履行した。

(三) 被告銀行は、同年七月四日、被告新日本貿易から本件(3)及び(4)の商品についての各荷為替手形を買い取ったが、同月六日被告新日本貿易の申出により右(一)の振込依頼が合意解除されたので、右各手形の円貨代り金を原告の銀行口座に送金することなく、被告新日本貿易に交付してしまった。

(四) ところで、依頼書は、一般に海外顧客に対する直接の輸出業者の資力が不確実視されるとき、銀行が、輸出業者の依頼により、その業者に輸出商品を売り渡そうとするメーカーに対し、右メーカーが輸出業者に商品を引き渡し、銀行が右業者からその荷為替手形を買い取った際には、銀行がメーカーに右商品代金を支払う旨を約束して発行するものであり、メーカーに商品代金が確実に支払われることを信頼させることにより、輸出業者の信用を補充して輸出を円滑に行なうようにさせるという機能を有する。このように銀行が依頼書を発行し、メーカーがこれを信頼して輸出業者に商品を売り渡すことは広く商習慣として行なわれていることであり、被告銀行は、本件依頼書を発行し、被告新日本貿易から荷為替手形を買い取ることにより、直接原告に対し次の(1)ないし(3)のいずれかの理由により商品代金を支払い、又は円貨代り金を振込送金すべき義務を負担したものである。

(1) 特殊な支払約束契約

被告銀行は、本件依頼書を発行することにより、被告新日本貿易からの本件(3)及び(4)の商品についての荷為替手形の買取りを停止条件とする原告への送金依頼を承諾するとともに、原告に対し、被告新日本貿易から右手形を買い取ったときには、その円貨代り金のうち本件(3)及び(4)の商品代金を原告の銀行口座に振込送金する方式で支払う旨の停止条件付債務負担の意思表示をした。そして、原告が本件依頼書記載の信用状どおりの商品を被告新日本貿易に引き渡し、これに関する荷為替手形が同被告を通じて被告銀行に到達したことにより、右債務負担についての原告の承諾の意思表示がなされるとともに、被告銀行が右手形を買い取ったことにより右条件が成就したので、原告は被告銀行に対する右売買代金の支払請求権を取得した。

(2) 重畳的債務引受ないし連帯保証契約

被告銀行は、本件依頼書を発行した上、被告新日本貿易から右荷為替手形を買い取ることにより、原告に対し、被告新日本貿易の原告に対する本件(3)及び(4)の商品の代金債務について、重畳的に債務引受をし、又は連帯保証する旨の意思表示をし、右(1)のとおり、荷為替手形が被告銀行に到達することにより、右債務引受又は連帯保証について原告の承諾の意思表示がなされたものである。

(3) 第三者のためにする契約

被告銀行は、本件依頼書発行に当たり、被告新日本貿易との間で、同被告を要約者、被告銀行を諾約者、原告を受益者として、被告銀行が本件(3)及び(4)の商品についての荷為替手形を買い取ったときには、本件商品代金相当額の円貨代り金を原告に対して支払う旨の第三者のためにする契約を締結した。そして、右(1)のとおり、荷為替手形が被告銀行に到達することにより、原告の受益の意思表示がなされたものである。

(五) よって、原告は、被告銀行に対し、右(1)ないし(3)のいずれかの契約に基づき、本件(3)及び(4)の商品の売買代金ないし同相当額の金一〇三六万五九六〇円及びこれに対する弁済期の経過した後である同年七月一四日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3  被告銀行の不法行為責任

仮に右2の請求が理由がないとしても、被告銀行は、原告に対し、次のとおり不法行為による損害賠償責任を負担する。

(一) 被告銀行は、被告新日本貿易が、商慣行に基づき、依頼書の与信力を利用して原告から輸出商品の引渡しを受けるものであることを十分承知しながら、本件依頼書を発行した。そして、原告も、被告新日本貿易から本件依頼書原本二通の交付を受け、同依頼書を信頼して昭和五四年六月二一日同被告に対して本件(3)及び(4)の商品を引き渡した。

(二) ところが、被告銀行は前記2(三)のとおり、同年七月四日被告新日本貿易から本件(3)及び(4)の商品についての荷為替手形を買い取っておきながら、同月六日右被告から原告への送金依頼の解除を申し入れられるや、何らその理由を確かめることなく、かつ原告に対して照会等することなく、漫然右申入れに応じ、原告に振込送金すべき円貨代り金一〇三六万五九六〇円を被告新日本貿易に支払ってしまった。

(三) そして、被告新日本貿易は、被告銀行から受領した右金員を隠匿して原告に支払わないため、原告は、右金員の支払を現実に受けられず、本件(3)及び(4)の商品代金一〇三六万五九六〇円の回収が不能又は少くとも著しく困難となった。

被告銀行の右行為は原告の右代金額相当の円貨代り金の振込送金を受けるべき権利を侵害する違法なものであり、そのため、原告は同額の損害を被った。

(四) よって、原告は、右2の請求が認容されないときは、被告銀行に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき損害金一〇三六万五九六〇円及びこれに対する不法行為の日の後である同年七月一四日から支払ずみまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

4  被告村田の不法行為責任

(一) 前記1(一)、(二)のとおり。

(二) 前記2(一)のとおり。

(三) 被告村田は、被告新日本貿易の代表者として事実上同社の業務を一人ですべて統括し執行している者であるが、前記1(三)のとおり、被告新日本貿易が原告から買い受けた本件(3)及び(4)の商品について、原告に対しその代金を全く支払わない旨の決意をしており、又は少なくとも原告が右代金の支払を受けることを著しく困難ならしめようと決意しているのに、右意図を秘して、昭和五四年六月六日ころ、原告に対し、本件依頼書原本二通及び輸出関係書類を交付し、商品船積後は右依頼書の趣旨に従って確実に商品代金を被告銀行から原告の口座に振込送金させる旨表明して、原告をしてその旨誤信させた。

(四) 原告は、本件依頼書を受領したので、同月二一日、同被告との約定どおり信用状に合致した本件(3)及び(4)の商品を乙仲業者である日本港運株式会社に引き渡し、同月二七日同社をして船積みさせたが、被告村田が前記2(三)のとおり、被告銀行に右商品についての荷為替手形を買い取らせた後に原告への振込依頼を解除して右商品代金相当額の円貨代り金一〇三六万五九六〇円を受領し、そのまま隠匿したため、原告の被告新日本貿易に対する右商品代金の回収は不能又は少くとも著しく困難になり、結局、原告は被告村田の右不法行為により同額の損害を被った。

(五) よって、原告は、被告村田に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金一〇三六万五九六〇円及びこれに対する不法行為の日の後である同年七月一四日から支払ずみまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因1に対する被告新日本貿易の認否及び主張

1  請求原因1(一)の事実のうち、原告の業務の内容は知らない。原告と右被告との間で昭和五〇年三月三一日付で継続的取引契約を締結したこと、右契約が昭和五三年四月一日以降も更新されて存続してきたことは認めるが、その内容は次のとおりであり、これと相違する部分は否認する。

(一) 被告新日本貿易は、原告の総代理店として、原告の製造販売するサンバタ印バドミントン用品の海外取引(製品の輸出及び原料の輸入)について、そのすべての業務を行う。

(二) 製品の輸出に関しては、右被告が原告から製品を一手に買い受けて自らの仕切り価格によって輸出し、原料の輸入に関しては、同被告が一手にこれを輸入し、原告から取り決めた手数料の支払をうける。

(三) 契約の期間は三年とし、同被告又は原告のいずれかにおいて契約更新に異議があるときは、右期間満了の六か月以前に相手方に申し出る。

2  同1(二)の事実中、昭和五四年五月一日以降も、少くとも同年一〇月三一日までの間は、原告と被告新日本貿易間の取引を従前どおり続ける約定であったことは認めるが、その余は否認する。

3  同1(三)の事実のうち、(4)の代金額につき金八四七万五五六〇円の限度で認め、同金額を超える部分は否認するが、その余は認める。

4  同1(四)、(五)の各事実は認める。

5  被告新日本貿易の主張

(一) 右被告と原告との継続的取引契約は、右1のとおり、いわゆる総代理店契約であり、原告がその製品の輸出及び原料の輸入という海外取引一切を同被告に行わせるというものである。したがって、同被告は原告の海外取引の取扱について独占的権利を有しており、原告は、同被告に対し、原告の海外取引を同被告以外の業者に行わせてはならない債務を負っていた。

(二) ところが、原告は右総代理店契約に反し、契約締結当初のころから訴外太陽商事有限会社(サンバタの旧商号、以下「太陽商事」という。)等数社に原告の海外取引の一部を行わせ、右被告の契約上の独占的権利を侵害した。

(三) 原告は昭和五〇年四月一日から昭和五三年一二月末日までの間、右被告との総代理店契約に反し、次のとおり、同被告以外の太陽商事、東明商事株式会社、神港交易株式会社に原告の海外取引のうち輸入に関する取引を行わせた。

(1) 太陽商事関係

昭和五〇年四月から同五二年一二月まで 金七〇〇一万円

昭和五三年分 金四七七五万円

(2) 東明商事株式会社関係

昭和五二年分 金四六四五万円

昭和五三年分 金六七八七万円

(3) 神港交易株式会社関係

昭和五三年分 金一四五六万円

(四) 被告新日本貿易の輸入取引による利益率は昭和五二年末までの分は年五パーセントであり、昭和五三年一月以降は年七パーセントであるから、同被告は、原告の右(三)の契約違反により合計金一四九三万円以上の得べかりし利益を失い、同額の損害を被った。

(五) 右被告は、原告に対し、昭和五七年七月一九日の本件口頭弁論期日において、右契約不履行に基づく損害賠償請求権一四九三万円をもって右(三)の(1)、(2)、(3)の順序に、原告の本訴債権と請求原因1の(三)、(四)、(五)の順序にその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

三  請求原因2に対する被告銀行の認否

1  請求原因2(一)の事実のうち、原告と被告新日本貿易との間で本件(3)及び(4)の商品の取引がなされたことは知らないが、その余は認める。

2  同2(二)の事実のうち、原告が依頼書原本二通を受領したことは否認し、その余の事実は知らない。原告が受領したのは依頼書各副本計二通であり、依頼書の各原本は被告新日本貿易が所持しており、荷為替手形の買取りに当たり同被告から被告銀行に返却されている。

3  同2(三)の事実は買取り及び合意解除の日時の点を除いて認める。

なお、本件依頼書を被告新日本貿易に交付したのは被告銀行伊勢佐木町支店であり、同支店が被告新日本貿易からの荷為替手形の買取りの申込みを承諾したのは昭和五四年七月三日であるが、同支店は外国為替取扱店ではなかったところから、同支店は右手形を外国為替取扱店である同被告横浜支店に送付し、同横浜支店から右手形買取代金の送付を受けて始めて本件依頼書どおりの原告の口座への振込送金手続をとることとなっていたところ、右横浜支店から右買取代金が右伊勢佐木町支店に入金したのが同月四日午後二時二七分ごろであった。ところが、これより先、同日正午前に被告新日本貿易の代表取締役である被告村田が右伊勢佐木町支店に対し、口頭で原告の口座への振込依頼を撤回する旨申し出るとともに、円貨代り金は被告新日本貿易の普通預金口座に入金するよう指示していたので、同支店は、同日、右指示どおり、円貨代り金を被告新日本貿易の口座に入金した。その後、同月六日、右被告から、右支店に対し、右振込送金依頼を撤回する旨記載した書面が提出された。

4  同2(四)は争う。

本件依頼書による被告新日本貿易の被告銀行に対する原告預金口座への振込依頼は委任であり、原告がこれにより円貨代り金の振込送金を受けられるのは、被告銀行が被告新日本貿易に対する受任義務の履行として原告預金口座への振込みをすることによる反射的効果であって、原告自身には直接被告銀行に対して右振込みを求める権利はない。右のことは、本件依頼書に、被告銀行は同依頼書による振込依頼により被告新日本貿易以外の第三者に対しては何らの義務を負うものではない旨が明記されていること、仮に被告銀行が原告に対して支払義務を負うとすれば、同被告としては、右支払による被告新日本貿易に対する償還請求権を保全するため、同被告の振込送金依頼を承諾する際、同被告から当然担保を徴求すべきである筈であるのに何ら担保を徴していないことからも明らかである。

(一) (同2(四)(1)に対し)

本件依頼書には、被告新日本貿易が振込依頼を撤回又は内容の変更をする場合は被告銀行の承諾を得た上行う旨の文言があることからも明らかなように、本件振込依頼は、右各被告間の約束であって、原告と被告銀行間の約束ではない。

(二) (同2(四)(2)に対し)

被告銀行は本件依頼書を交付し、また、前記荷為替手形を買い取った当時、全く原告を知らなかったのであるから、被告銀行と原告との間に原告主張のような債務引受ないし連帯保証契約が成立する余地はない。

(三) (同2(四)(3)に対し)

本件依頼書には第三者に直接権利を取得させる趣旨の記載は全くなく、かえって、前記のとおり、被告銀行は第三者に対し何らの義務を負担しない旨明記されているのであるから、本件依頼書をめぐる関係が第三者のためにする契約に当たらないことは明らかである。

四  請求原因3に対する被告銀行の認否

1  請求原因3(一)の事実のうち、被告銀行が被告新日本貿易に対し本件依頼書を発行したことは認めるが、原告が同被告に本件(3)及び(4)の商品を引き渡したことは知らない。その余は否認する。

2  同3(二)の事実のうち、被告銀行が本件(3)及び(4)の商品についての荷為替手形を買い取ったこと、被告新日本貿易から振込依頼の撤回の申し入れがあったので、円貨代り金を同被告に交付したことは認め(ただし、手形買取り、振込依頼撤回等の日時は前記三3のとおり。)、その余は否認する。

3  同3(三)の事実のうち、被告銀行が原告の円貨代り金の送金を受けるべき権利を侵害したことは否認し、その余は知らない。

4  被告銀行が原告の預金口座に振込送金しなかったのは、委任者たる被告新日本貿易から振込送金の委任を解除されたためであって、被告銀行には故意、過失はなく、何ら違法の点はない。また、そもそも原告は、被告新日本貿易に対し本件(3)及び(4)の商品の代金一〇三六万五九六〇円の売掛代金債権を有し、右債権には何らの消長がないのであるから、原告には、その主張のような損害は生じていない。

五  請求原因4に対する被告村田の認否

1  請求原因4(一)に対する認否は同1(一)、(二)に対する被告新日本貿易の認否のとおり。

2  同4(二)の事実は認める。

3  同4(三)、(四)の事実のうち、被告村田が被告新日本貿易の代表者であること、原告と被告新日本貿易間で原告主張のとおり本件(3)及び(4)の商品の取引がなされたこと(ただし、(4)の代金は金八四七万五五六〇円である。)、被告銀行が右商品についての荷為替手形を買い取った後原告への振込依頼を解除して円貨代り金の交付を受けたことは認め、その余は否認する。

六  被告新日本貿易の主張(前記二の5)に対する原告の認否

前記二の5の(一)(二)の各事実は否認する。

原告が被告新日本貿易との間の契約により同被告に委任したのは原告の海外取引代行業務の一部であり、右契約当初から同被告以外に太陽商事等が右業務を行うことについては同被告も了解していた。

第三証拠《省略》

理由

一  被告新日本貿易に対する請求について

1  請求原因1(一)の事実のうち、被告新日本貿易と原告との間で、昭和五〇年三月三一日、同日から三年間、原告から同被告に対し、原告の製造販売しているバドミントン用具の海外への輸出及びその原料の輸入の業務を行うことを委任し、その手数料を支払う旨の継続的取引契約を締結したこと、右契約は、昭和五三年四月一日以降も更新されて存続してきたことは当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、右契約においては、信用状による輸出については、被告新日本貿易は、原則として、商品の船積完了後七日以内に、原告に現金で商品代金を支払う旨の約定であったことが認められる。

2  請求原因1(二)の事実のうち、原告と被告新日本貿易間においては、昭和五四年五月一日以降も、少くとも同年一〇月三一日までの間は、従前どおり続ける約定であったことは当事者間に争いがない。

3  請求原因1(三)の事実のうち、原告が、その主張のとおり、被告新日本貿易に対し、(1)ないし(4)の商品を売り渡したことは右(4)の商品の代金額の点を除いて当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば右(4)の商品の代金額は八六九万〇三六〇円であることが認められ、被告村田本人の供述中右認定に反する部分は採用できない。

4  同1(四)、(五)の各事実は当事者間に争いがない。

5  《証拠省略》によれば請求原因1(三)のうち(3)及び(4)は信用状による輸出についての取引であることが認められ、弁論の全趣旨によれば、右(三)のうち(1)、(2)及び同(四)も信用状による輸出についての取引であると認められるから、特段の事情の認められない本件においては、いずれの取引についても、昭和五四年七月一四日以前に商品の船積完了後七日以上を経過し、代金の弁済期が到来していることが明らかである。

しかし、請求原因1の(五)の取引については弁済期の定めがあったことについての主張立証がないから、《証拠省略》によって被告新日本貿易代表者である被告村田に昭和五四年九月二五日に到達したことが認められる原告の同月二二日付けの内容証明郵便による催告によりその代金の弁済期が到来したものというべきである。

6  そこで、被告新日本貿易の相殺の抗弁について判断する。

(一)  右被告は、同被告と原告との間の右継続的取引契約は総代理店契約であって、原告の海外取引一切を同被告に独占的に行わせる趣旨のものであったと主張する。

《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(1) 原告はシヤトルコック等のバドミントン用具の製造販売を業とする会社であるが、昭和五〇年当時右自社製品の輸出及び原料の輸入の海外取引も、太陽商事、株式会社ハーベストン物産、大拓貿易有限会社(以下「大拓貿易」という。)等数社を通じて行っていた。

(2) 被告村田は、昭和四九年ころ、大拓貿易に入社し、原告の右海外取引に関する業務に従事していたが、同年末ころ大拓貿易では経営不振から右海外取引に関する業務を中止することとなった。そこで、被告村田も原告代表者の斡旋で太陽商事に入社し海外取引業務を担当してはどうかという話もあったが、結局、勤務条件等が折り合わず、太陽商事には入社しなかった。

しかし、被告村田は、自ら独立して海外取引業務を行いたいという強い意向を有していたので、原告代表者と話し合い、その結果、被告村田がかつて経営していた休眠会社新日本ヘヤー有限会社の商号を被告新日本貿易と変更した上、被告新日本貿易が原告の海外取引の一部を取り扱うこととなった。

(3) そして、昭和五〇年三月三一日、被告新日本貿易と原告との間で前記継続的取引契約が締結されたが、同契約においては、対外的な輸出入の契約当事者は被告新日本貿易がなり、輸入の際の信用状も同被告が開設するが、輸入資金も原告振出の約束手形で手当てし、輸入のための経費も原告が負担し、また輸出した製品のクレームに対しては原告が全責任を負う旨約されたほか、原告から右被告に対し、手数料のほか、毎月五万円支払う旨の合意がなされた。

(4) 右契約は、原告の海外取引すべてを独占的に被告新日本貿易が行うというものではなく、従前から原告の海外取引を取り扱ってきた太陽商事等との取引は継続することが前提となっており、原告の海外取引の一部を右被告が取り扱うというものであった。そして、昭和五〇年四月以降も、原告は、右被告のほかに、太陽商事等数社を通じて海外取引を行っており、右被告もそれを知りながら、原告に対し格別他社との取引を中止するよう要請する等異議を述べることはしなかった。

(二)  被告村田本人の供述(第一回)中には、被告新日本貿易との継続的取引契約は総代理店契約であり、原告の海外取引はすべて独占的に右被告が取り扱う趣旨のものであった旨の供述部分がある上、前掲乙第一号証(原告と被告新日本貿易間の昭和五〇年三月三一日付取引契約書)中には右被告が原告の海外取引の総代理店である旨の記載が存し、成立に争いのない乙第一三号証(原告の商品の海外向けのパンフレット)中には総代理店を意味する「SOLE AGENT」として右被告の英文名が印刷されており、成立に争いのない甲第一〇号証(右被告作成の原告宛昭和五三年一一月二一日付け書面)には、同被告から原告に対する申入れとして原告の主要な海外取引先について「太陽商事その他貿易商社のインターフェアの無い様厳重にコントロールして下さい」との記載がある。

しかし、前記のとおり、被告新日本貿易は従前の仕事がなくなった被告村田が休眠会社の登記を利用して発足させたもので、被告村田本人の第一回供述によれば、同被告のほかは妻のみが従業員という実質的には同被告の一人会社であり、資金的裏付も全くなかったことがうかがわれる上、前記継続的取引契約においては、資金的にはほとんど原告が面倒をみることとなっていることからすれば、原告がそのような被告新日本貿易に、従前からの取引実績のある太陽商事等数社を排除して独占的な権利を与える理由も、必要も見出せないこと、《証拠省略》によれば乙第一号証中の「総代理店」との表現は、被告村田において、被告新日本貿易が輸出入業務のための銀行取引を開始するについて、同被告の業務内容を銀行に説明する際の資料とするため、便宜的にその表現を入れさせてほしい旨要請したために記載されたものであること、《証拠省略》によれば、原告の商品の海外向けパンフレットの中には「SOLE AGENT」として太陽商事の英文名の記載されたものや「SOLE AGENT」の記載が全くなされていないものも存在すること、甲第一〇号証中には、被告新日本貿易が原告の海外取引の総代理店である旨の主張はなく、弁論の全趣旨によれば、同号証中の前記記載部分も同一の外国において原告の商品が異った取引条件で、無制約に競合することをメーカーとして調整することを要望した趣旨のものであることがそれぞれ認められることに照らし、被告村田本人の前記供述部分は採用できない。

同被告本人の供述中、その余の右(一)の認定に反する部分もたやすく採用し難く、他に右(一)の認定に反する証拠はない。

(三)  結局、被告新日本貿易が原告の海外取引のすべてを独占的、排他的に取り扱う契約であった旨の同被告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告新日本貿易の相殺の抗弁は、その余の点について判断するまでもなく失当である。

7  以上のところから、原告の被告新日本貿易に対する請求は、被告新日本貿易に対し、請求原因1の(三)及び(四)の代金合計一二三〇万八〇六〇円及びこれに対する弁済期の後であることの明らかな昭和五四年七月一四日から、同(五)の手数料五四万円及びこれに対する弁済期の翌日である同年九月二六日から各支払ずみまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

二  被告銀行に対する契約上の請求について

1  請求原因2(一)の事実のうち、原告と被告新日本貿易との間で本件(3)及び(4)の商品の取引がなされたことを除くその余の事実は当事者間に争いがなく、原告と被告新日本貿易との間で原告主張のとおり右商品の取引がなされたことは、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

2  請求原因2(三)の事実は、日時の点を除いて当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、被告新日本貿易は被告銀行から本件依頼書原本各一通及び写各一通の交付を受けたが、原告は被告新日本貿易から右各写の交付を受けた上、昭和五四年六月二一日、本件(3)及び(4)の商品を被告新日本貿易に引き渡したこと、被告新日本貿易から被告銀行伊勢佐木町支店に対し、同年七月三日に本件(3)の商品につき、同月四日に本件(4)の商品につき、各本件依頼書の原本、信用状及び輸出関係書類を添えて荷為替手形の買取りの依頼があったので、同支店はそれぞれ右依頼の当日右各手形の買取りを承諾したこと、しかし、右支店は、外国為替取扱店ではなかったので、右手形の買取り資金は外国為替取引店である被告銀行横浜支店を通じて同本店から送金されてくることとなっていたが、本件(3)の商品についての手形の買取資金は同月四日午後二時四八分、本件(4)の商品についての手形の買取資金は同日午後二時四七分に横浜支店から伊勢佐木町支店に入金したこと、ところが、これより先、同日午後、被告新日本貿易代表者である被告村田が、同支店に電話で、右各手形の円貨代り金の原告の預金口座への振込送金の依頼を撤回する旨申し出ていたので、同支店においてもこれに応じ、右円貨代り金を原告の預金口座に振込送金せず、同支店の被告新日本貿易の普通預金口座に振り込んだこと、被告新日本貿易からの原告の預金口座への振込送金の依頼の撤回により右のような処置をするについて同支店としては原告に対して何の連絡もしなかったこと、同支店においては、右振込送金依頼の撤回の申出を受けた際、被告村田に対し、後刻右申出についての念書を提出するよう求め、これに応じて、同月六日、被告新日本貿易から同支店に対し、右撤回の申出について、原告に取引契約違反があり同被告において損害賠償請求をするので原告への支払を停止する旨が記載された同月五日付けの「振込依頼撤回について」と題する書面(丙第七号証)が提出されたことが認められ、原告代表者本人の供述(第一、二回)中、右認定に反する部分は採用できない。

3  原告は、被告銀行が本件依頼書を発行し、手形を買い取ることにより、直接原告に対し、本件(3)及び(4)の商品代金を支払い、又は円貨代り金を振込送金すべき債務を負担した旨主張するので、この点について判断する。

(一)  右1の事実及び《証拠省略》によれば、(1)従前から、信用力の乏しい中小輸出業者が輸出商品を仕入れるに当たって、取引銀行に対し、右輸出取引に関する信用状を預託して同信用状に基づく輸出商品の荷為替手形を将来買い取ることを依頼するとともに、右買取りがなされたときには、その円貨代り金のうち輸出商品の代金相当額を右商品の仕入先である生産業者の銀行口座に振り込むことを書面で依頼し、右取引銀行から同書面に右依頼を承諾する旨の記載を受けたものを依頼書と称し、これを輸出商品仕入代金支払の確実性を証する資料として右生産業者らに交付して輸出商品の売渡をうけるということが一般に行われてきており、本件依頼書も、右の一般の例にならったものであること、(2)依頼書による振込依頼は、輸出用荷為替手形が買い取られることを停止条件とするものであるから、右手形がその銀行に持ち込まれて買い取られなければ、銀行による振込みはなされないが、持ち込まれた手形が信用状の記載条件に合致している場合にも、銀行においてその手形の買取りに信用上の不安があると判断するようなときは、銀行は、依頼者に対し右手形を買い取る義務はなく、また、手形の買取りを行った場合にも、依頼者において振込依頼を撤回したとき、又は銀行の債権保全上重大な不安があるようなときは、銀行において振込の依頼に応じないことができるものとされており、本件依頼書にも①被告新日本貿易は被告銀行の承諾を得た上で振込依頼を撤回することができる、②被告銀行の都合により、被告新日本貿易の持ち込んだ手形の買取りがされない場合あるいは買取円貨代り金が同依頼書における依頼のとおり処理されない場合も、同被告は異議を述べない、③同振込依頼は、被告銀行、被告新日本貿易間の約束であり、被告銀行は、被告新日本貿易以外の第三者に対し、何らの義務も負担しない旨の記載があること、(3)依頼書における振込依頼の内容は、第三者の銀行口座に振り込むこと(殊に本件依頼書の場合、被告銀行に対してなされた依頼は、他の銀行における原告の預金口座への振込送金である。)であり、第三者に対し、直接金員を支払うことが依頼されてはいないこと、(4)依頼書による依頼を承諾するについて、銀行は、輸出業者の仕入代金債務の保証をするようなこととは全く異なるものであり、輸出業者の仕入先に対し銀行が何ら債務を負担するものではないという前提の下に、輸出業者に対する求償権について担保を要求するというような措置を全くとっていないこと、(5)依頼書には、以前、右(2)の③のような記載はなされていなかったが、依頼書により銀行が輸出業者の仕入先に対し、直接支払義務を負担するか否かをめぐって紛争が生じた事例があったので、そのような事態を防止するため依頼書に右のような記載が加えられたものであること、(6)原告代表者も本件依頼書の写しの交付を受けており、同依頼書に右(2)の①ないし③のような記載のあることは十分了知し得る状況にあったことが認められる。

(二)  右の事実からすれば、被告銀行は、本件依頼書により、被告新日本貿易に対し、輸出商品の荷為替手形の買取りを停止条件として、その円貨代り金を原告名義の預金口座に振込送金することを約したに止まるものであって、これにより、原告に対し右商品の代金を振込送金する旨約したり、被告新日本貿易の右代金支払債務を引き受け、又は連帯保証したものではなく、また、被告新日本貿易との間において原告を受益者とする第三者のためにする契約を締結したものでもなく、原告に対し、右振込送金をすべき義務を負うものではないというべきであるから原告の右主張は失当である。

4  したがって、原告の被告銀行に対する契約上の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

三  被告銀行に対する損害賠償請求について

右二3(二)のとおり、本件依頼書により、原告は、被告銀行に対し、円貨代り金の振込送金を受けるべき権利を取得するものではないのみならず、右二3(一)の認定事実によれば、被告銀行と被告新日本貿易間の本件依頼書による契約関係は、原告の預金口座に振込送金する事務の委任と解されるので、委任者である被告新日本貿易としては、本来、いつでも右振込依頼を撤回できるものであり、本件依頼書には右二3(一)(2)①で認定したとおり、被告新日本貿易が振込依頼を撤回するときは被告銀行の承諾を要する旨の約定があるが、証人磯部光彦の証言によれば、右の約定は被告銀行において被告新日本貿易に対し債権を有しその保全の必要がある等被告銀行の利益を擁護するために振込依頼の撤回に同被告の承諾を要するものとする趣旨のものであり、被告新日本貿易の商品仕入先である原告の利益を配慮してのものではないことがうかがわれることに加え、右二3(一)(6)認定のとおり本件依頼書には同(2)①ないし③の約定の記載があり、原告代表者においてもそれを了知し得る状態にあったことに照らせば、被告銀行が被告新日本貿易からの振込依頼の撤回の申入れに対し、原告への照会等をすることなく承諾し、円貨代り金を被告新日本貿易の預金口座に振り込んだことは原告に対する不法行為には当たらないというべきである。

したがって、原告の被告銀行に対する損害賠償請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

四  被告村田に対する請求について

1  請求原因4(一)の事実及び原告と被告新日本貿易間で本件(3)及び(4)の商品の取引がなされたことについては前記一1、2及び3のうち本件(3)及び(4)の商品に関する部分のとおりである。

2  原告と右被告間の継続的取引契約の締結及びその後の経過に関する事実は前記一6(一)のとおりであり、請求原因4(二)の事実は当事者間に争いがなく、原告が被告新日本貿易から本件依頼書の写の交付を受けて以後、右被告から振込送金依頼の撤回がなされ、丙第七号証が提出されるまでの事実関係は前記二2における認定のとおり(ただし、丙第一ないし第七号証は証人木間信幸の証言により成立を認める。)である。

3  《証拠省略》によれば、原告代表者諸江秀一は、被告村田の取引上の態度について不信感を持ち、昭和五三年一一月ころ、同被告に対し、被告新日本貿易との間の前記継続的取引契約を解消し、原告の海外取引をサンバタを通じたものに一本化したい旨申し入れたこと、右申入れに対し、被告村田は昭和五〇年三月以降、被告新日本貿易としてかなりの取引実績をあげてきたことから容易に応ぜず、交渉は難航したこと、昭和五四年四月ころには、原告代表者は、被告村田に対し、前記継続的取引契約を合意解約する旨の条項を含む請求原因一1(二)のような内容が記載された「合意書」と題する書面(乙第一七号証)を送付し、被告新日本貿易の署名押印を求めたが、被告村田はこれに署名押印せず、右書面を手元にとどめたままにしていたこと、被告村田としては原告との右取引解消をめぐる話合いを有利に進める意図から本件(3)及び(4)の商品の代金支払を一時留保しようと考えて、被告銀行に対する前記振込送金依頼を撤回したものであること、その後、被告新日本貿易は、原告に対し、同被告が前記相殺の抗弁で主張するような総代理店契約違反による損害賠償請求権を有する旨主張して右代金の支払を留保していること、その後、被告新日本貿易は被告銀行の前記預金口座から右円貨代り金の払戻しを受けたことが認められる。

原告代表者本人の供述(第一、二回)中、被告新日本貿易との間の継続的取引契約の合意解除が成立したとの部分は、左のとおり乙第一七号証に右被告の署名押印がなされていないこと及び被告村田本人の供述(第一、二回)に照らし採用できず、他に右認定に反する証拠はない。

右のように被告村田は、原告との間でなされていた継続的取引契約の解消をめぐる交渉を被告新日本貿易に有利に進めようという意図から被告銀行に対する振込送金依頼を撤回し、本件(3)及び(4)の商品代金の支払を留保したものであることがうかがわれるが、右代金を全く支払わない意思であったと認めるに足りる証拠はなく、また、被告新日本貿易は、前記認定のとおり、既に被告銀行から前記円貨代り金の払戻しを受けているが、これにより、原告の被告新日本貿易に対する右商品代金の回収が不能又は著しく困難になったことを認めるに足りる証拠はないから、被告村田の行為が原告に対する不法行為に当たるとする原告の主張は失当である。

4  したがって、原告の被告村田に対する請求は理由がない。

五  結論

よって、原告の被告新日本貿易に対する請求は金一二八四万八〇六〇円及びうち一二三〇万八〇六〇円に対する昭和五四年七月一四日から、うち金五四万円に対する同年九月二六日から各支払ずみまで年六分の割合による金員の支払を求める限度でこれを認容し、その余は棄却することとし、原告の被告銀行、被告村田に対する請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 菊池信男 裁判官 遠山和光 林道晴)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例